理想恋愛屋
「ごめん、萌」

「う、うん……」

 腑に落ちないような萌だったけど、これ以上こんなオレの姿を見せたくなかった。

だけど出ようとする萌は、中途半端な格好でとまった。



……なんだ?



 その萌の視線をたどると、兄がじいっと萌を見つめていた。

「……お兄、ちゃん?」

 あのブラコン娘さえ、様子のおかしい兄をゆすっている。

「あのぉ……、何か御用ですか?」

 恐る恐る萌がうかがうように兄に尋ねる。


 だが、なんとなくオレは分かった。

伊達に『恋愛屋』やってんだ。


「あー……。萌、また後で電話くれない?」

 オレは無理やり萌を外に出そうとした。

だけど、それよりもはやくグイっと萌の腕が引っ張られる。


「きゃっ……」

 それは、あの兄だ。

「ちょ……、匠さん!」

 やばい!金にもなんないし、それに萌は……!


 兄の名前を呼んだけれどすでに彼の口は開きかけている。


「恋愛屋さん、きちんと報酬は出しますから」

 にっこりとオレのほうを向いてきた。

「えっ、あの……っ!」

 慌てて仲裁に入ろうとしたけど、もう遅かった。

兄は驚いている萌の透き通るような白い手をぎゅっと握る。


「僕と、デートしてもらえません?」


.
< 13 / 307 >

この作品をシェア

pagetop