理想恋愛屋
 例えいくら一緒にいてといわれても、告白の場面に立ち会ったことなんてない。

彼女たちの背中を押して、こっそり抜け出そうとしたときだった。


「ま、待って…!」

 彼の叫び声に、思わず振り返る。

焦ったように秋さんの告白を遮っていたのだ。


 一体どうしたんだろうか…?


「秋さん、まさか…告白なんてしないよね…?」

 まるでありえないとでもいいたそうだ。

「ど、どうして……」

 折角の勇気を、ぱきんと無残に折られた秋さんの声は悲しみに揺れている。


「ちょっと、そんな言い方…っ!」

 ひどい言い様にオレは腹が立っていた。
そんなことを言われたら、誰だって臆病になってしまうのに。


 掴みかかろうと一歩足を踏み出した瞬間、ヒュンとなにかが風を切る。


 その直後。

スパァァアアン!と、かなりイイ音が辺りに響き渡った。

「いってぇええっ!」

 彼は頬を抑えて、勢いよく尻餅をついていた。

ズンと怒りを身にまとって立ちはだかっていたのは、誰でもない彼女。

右手にはいつものようにどこからか取り出した、彼女の最強武器・ハリセンが握られていた。


「なっ、何するんだよ!いくら一ノ瀬さんの妹さんだからといって…!」

 睨みあげる彼もまた、彼女の迫力には少しひるんでいるようだ。

「は、遥姫!」

 匠さんも突然のことで戸惑っていた。

だけど彼女は、その兄でさえ相手にせず、まだ座ったままの彼の襟元を掴みあげた。


「人の告白を受け取りもせずにつき返すなんて、大した度胸ね」



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