理想恋愛屋
 声がする方を見ると、ぱたぱたと足音を響かせてやってきたのは肩で息をする怒りの姫君とその兄だ。

闇から現れた彼女は、怒りなんてどこかへ投げ捨ててしまっていたようだけれど。


「さっきの秋ってヒトだけど…っ!」


 この現状を見て、兄はすでにお腹を抱えて笑い出していた。

そして真実を伝えるべく、彼女も頬の緊張を解いてニヤけた顔で口にする。



 昔、誰かにいわれたことがある。

どうやら、オレはとんでもない宿命の星に生まれたそうだ。



 確かに萌のことから始まり、こうして彼女がやってきた日常は事件続きだった。

でも、オレにはまだまだ課される試練が残っているみたいだ。



「そのヒトは…」

 彼女は秋さんを指を差して、ポカンと口を開けたままのオレとを見比べては笑いを零す。

 さぞかしオレはマヌケな顔をしていたんだろうけど、それすら直す余裕なんてこれっぽちもない。


「えへ」

 ペロっと舌を出した秋さんはかわいいフリをしただけだ。

まさか、なんて欠片も思わなかったオレには十分すぎるほどの衝撃。


「男、なのよ……」


 フラリと眩暈が襲い、爽やかな夏空の下でオレは倒れこんでしまった。




 …―意識を失ったオレが目を覚ましたのは、それから数刻後だった。



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