理想恋愛屋
「森下治秋です」

 ニッコリわらった秋さんが、翌日改めて事務所にやってきた。

 どこからどうみても女性なのに、実は男で、オカマバーに勤めているということは昨夜聞かされたこと。


 朝起きてきっと夢だったに違いない、というオレの予想は、見事裏切られたわけなんだ。

そして、昼間だというのに堂々とオレの隣には、私服姿の彼女まで参加している。


「…確かに、いわれてみれば手も大きいしね」

 彼女は興味深げに、秋さんを上から下までじっくり観察している。


 本当にオレには女性にしか見えなかった。

けれど喉元なんかはうっすらその面影を残しているし、体形も彼女と比べれば角ばっている。

 オレの情けなさは、秋さんの自信に繋がったのかもしれないけど。


「あれからスッキリしちゃって…。本当にありがとう」

 いたって明るく振舞っていたけど、目の下はうっすら赤くなっていた。


「あ~あ、こんなのと張り合ってた自分が恥ずかしいわ」

 今回は彼女でさえ一枚噛まされたわけで、細くて長い足を投げ出した。


 彼女が秋さんの働くバーに行って追い返された意味が、今ならわかる。

『オンナノコじゃダメ』っていうのは、彼女を子供扱いしたわけじゃなく、性別が女であることに問題があったってこと。


「っていうか、お前なんでココにいるんだよ」

 隣の彼女に目をやると、勝ち誇ったように笑う。

「強いて言うなら、夏休みだから?」

 さも当然に言い放ち、先ほど自分で注いだアイスティーを口にしている。

 これ以上彼女に何を言ってもいいくるめられるだけだ。

諦めて向き直ると、彼女に対して秋さんは笑っていた。
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