理想恋愛屋
 勿論、突然の大声にモメていた二人はスゴイ形相で振り向いてきた。

おかげで二人の口論は止まったのだけれど。


 ……ああ、オレっていつもこうなる運命なわけ?


 不幸中の幸いは、彼女たちの背後にはソファがあったことぐらいだ。


「いってて…」

 ゆっくり頭を起こせば、次の展開が考えなくても目に浮かぶ。


 目の前には、痛そうに仰向けに彼女。

そして、後ろからしっかり腰に手を回してオレにしがみついた秋さん。


 なんなんだ、この地獄絵図…。


 冷や汗が流れるこの状況にいち早く気づいたのは、秋さんだった。

「…葵ちゃん、このままアタシとドウにかなっちゃう?」

 身動き取れないまま、恐ろしいお誘いがかかる。

低音がかかった、だけども少し艶っぽい声音が背筋を凍らせた。


「い、いえ…遠慮、しときマス」

 オレが呟いたと同時に、倒れていた彼女と視線がぶつかった。

彼女もこの事態をはっきりとは把握していないようだったが。


「よ……、よう」

 できればこの現状を受け止めてほしくないと想いつつ、報われないことは頭の隅っこで分かっていた。

 次第に、ふるふると震える彼女の体。

青ざめるオレは怒りに満ちた彼女から一刻も早く逃げ出したかった。


 それとは裏腹に、タイミング悪く事務所の扉がカチャリと開かれる。

「葵さーん、遥姫さーん」


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