理想恋愛屋
 大学時代、出会ってからお互いが恋に落ちた。

それは偶然ではなく、必然だって思ってた。


 “大学を卒業したら結婚しよう”


オレたちの約束だった。



だけど、それは叶うことはなかった。



 もともと、かつての恋人·上原萌はなかなか名の知れた資産家の孫だった。

一般家庭に育ったオレは、玉の輿狙いだ、と周りから見えていたんだと思う。

おかげで、付き合いたては話したこともないやつからよく陰口を言われたもんだ。


 本当に、オレは萌がいればよかった。

ちょっとテンポの遅れた話し方も、ふわりと雲のように溶けてしまいそうな笑顔も。

それさえあれば、名誉も資産もいらなくて。



 そんなオレたちに、運命の日は訪れる。

卒業を目前に控え、ある種うかれまくっていた。

これからはずっと萌が隣にいるんだと思っていたから。


『上原財閥!所得隠しで逮捕か!?』

 そんなニュースが出回る。


 大学なんて卒業しちゃえばどうってことない。


オレが萌を守るんだ。

……そう思ってたのに。


「葵、離れよう?」

 そういったのは萌だった。


「何で!?あんなコトぐらい、オレが……!」

「あんなコトぐらいじゃないよ!」

 そんな萌の荒げた声を聞いたのは初めてで、オレはすくんでしまった。


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