理想恋愛屋
「うっわわわわわわ!」

 突如、オトメくんがあげた悲鳴に振りかえると、勢いよく例のように、俺の後ろにずざざと身を隠す。

こういうときはいつだって…


「あ…、ごめんなさい」

 オトメくんがいたとおもわれる場所には、一人の女の子がいた。

細い腕に、ふわりと風に舞うワンピース。
手にしているツバのおおきな帽子。

全てが、太陽の光に透けてしまうほど白かった。


 年齢的には我ら一行の特攻娘とおなじくらいなんだろう。

しかし、その病的なまでの色素が薄いせいなのか、あどけなさはたっぷり残していた。


「すみません、わたしの帽子が、彼の荷物にかぶさってしまったものだから」

 少女はつぼらな唇からは、鈴のような声音。

薄幸の少女、とでもいいたくなるような雰囲気で、ゆっくりと屈んだ身体を起こしてオトメくんに微笑む。


「あ……いえ」

 本人は口ごもって、オレのシャツを一向に離さない。


 沈黙を続けるオトメくんに、脇腹をつついてやる。

オレの意図を察したのか「無理!」とでもいいたげに、ブンブン首を振っているだけだ。

「あ、あの……」

 仕方なしに、オレが代わりに話しかけようとすると、少女は白い日傘をばさりと広げる。

軽くまわすように肩に乗せ、ペコリと頭を下げてきた。


「どうやら驚かせてしまったみたいですね。…皆様、お急ぎでしょうからわたしはこれで失礼します」

 気を効かせてくれたのか、裾をひらめかせてすうっと木陰に消えてしまった。


 あんな少女にまで気を遣わせるなんて。

呆れて一同は深いため息をついていた。


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