理想恋愛屋
 オトメくんを静かに責めるような空気の中、オレの背中にバシン!と大きな音を立て激痛が走る。

「いってぇ!!」

 あっちが終われば、こっちが始まる。

唖然とする一行の視線を集めながら思わず地面に手をついたオレは、奥歯をギリっと噛んで振り返る。

そこには腕を組んで仁王立ちで見下ろしてくる彼女。


「ほら。さっさといくわよ!」

 まるで我関せず、といわんばかりに踵を返し、一人先へ進んでしまう。

確かにシャトルバスの発車時刻も迫っていたため、叩かれたことへの文句もぐっと飲み込んだ。

そして、ぽつんとオレの足元に残された彼女の荷物を視線を落とす。


「…一体何しに来たんだか……」

 弟子同様、不甲斐ない自分にため息をついた。


 少女がいなくなったからなのか、蝉の声が響くからなのか、やけに熱さを感じる。

荷物を手にする前に、一度、顎まで流れた汗を拭ったときに気づいた。

 みんなはすでにバスが停まっているターミナルに向かっている。
なのに、ポツンとたたずむ姿が一人。


「オトメくん……?」

 駅を囲むようにそびえる木々に向かって、じっと食い入るように見つめていたのはオトメくんだった。

オレの声にびくっと肩を震わせて、ようやくみんなが移動し始めたことを理解したようだ。 


「…えっ?あ、すみませんっ!」

 彼自身の小さなボストンバッグを肩に引っ掛けて、パタパタと足音を鳴らして彼女たちの元へと向かっていく。

その後姿を見て、オレは思った。




 ……少しは、手伝ってくれよ。


「んもう、オトメくんってば何してんのよ!?」

 彼女の楽しそうに叱る声が、少し離れたオレの耳にも届いていた。

 こんな切実な思いを、このメンバーが読み取ってくれるなんて期待したオレが馬鹿だったのだ。


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