理想恋愛屋
「いやらしいコト考えてるぅ~」

 意地悪く横目で見つめられる。

若干、秋さんについてヤマしいことを考えそうになっていた自分もいて、図星を差された気がした。


「ち、ちっ、ちが……!」

 慌てて弁解しようとすると、秋さんがオレの背中の向こうを可笑しそうに指差す。


「ほらほら、オトメくんいっちゃうわよ?」

 誤解されたままなのも困るが、こっちもチャンスを逃すわけにはいかない。

簡単に手を上げてきびすを返す。

「じゃ…、じゃあ秋さん、またあとで!」

 見失わない程度に走って、玄関から外に出て行くオトメくんの後ろ姿を追いかけていった。


 これまた風情のある備え付けの下駄に履き替えると、日が落ちてきた林道にカラカラと響く。

カップルや夫婦だったり、まだ人気が残っていて、オレが後を追っていてもあまり不審ではないだろう。

 そんな中、ふらりふらりと辺りを見回しながら歩くオトメくん。


 やっぱり何かヘンだ。

そう確信を得ているが、こちらもこちらでオカシイことが……。



「……―ってか、なんで秋さんまでいるんですか」

 オレと同じ柄の藍色の浴衣を着ている秋さんが、しっかりオレの腕を掴んでいる。

おそらくスッピンだろうけど、肌はキラキラしてるしまつげも十分長く、髪からはいい香りがした。

それのせいなのか、すれ違う男たちはチラリと振り返っていて、良心がなんとなく痛む。

 当の本人は、気づいてるのか気づいていないのか、調子よくとぼけているが。

「え?デートじゃないの?」

「なな、なんでそうなるのっ!?」

 離れようとしたけれど、ぴったり腕を絡め、肩によりかかるように頬を預けてくる。


「そ・れ・に~、カップルのフリしていれば、周りに怪しまれないでしょ?」

 それ以前に、秋さんとカップルに思われる方が災難だ。

とは口にしないで、ここまで来てしまったし、としぶしぶその案にのってみた。



 ……まあ、あとから考えてみれば、そんなの秋さんの口車にのせられただけなんだけどな。




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