理想恋愛屋

3.スリッパの恋文

「さ~、張り切っていくわよ!」

「相手が葵ちゃんといえども、負けなくてよ?」


 目の前には炎をその瞳にたぎらす彼女と秋さん。


「で……できるかぎりがんばります…」

 オレの隣には頼りないオトメくん。

辺りでカンコン、カンコンと軽快に響いている中で、につかわないほど細い声。

「龍さま、がんばって」

 その声援を受けて、ピシリと背筋がよくなる姿を見て、オレは更に不安にならざるを得ない。

 背後でちょこんと座る最愛の人に、いい格好が少しでもできるといいけどな。

もはやオレには他人事のように感じていた。


 そんな空気を真っ二つ割る彼女の声。

「いっくわよ~!てぇぇぇええいっ!!」

 彼女の手から放たれた白い手のひらサイズのボールは、俊敏にオレに向かってきた。

こんなときほど兄の力を借りたいというのに。



 夕涼みの後、夕飯までの時間のときだ。


「萌さんとデートしてきますね」

 有無を言わさない笑顔に反論できるわけもなく、肩を落として見送ったのを思い出していた。

そして、意気揚々と彼女につられてきたのがココ、卓球場だ。


「温泉といったら、コレでしょう?」

 得意げに笑う彼女に便乗したのは大人気ない秋さん。

困っていたオトメくんに、秋さんが「あの子も連れてくればいいじゃない!」と甘い誘惑をかけるもんだから―…。


「ぼ、ぼぼぼ、僕、がんばりますっ!」


 すっかり舞い上がっているオトメくんも巻き込まれ。

挙句の果て、部屋に戻ろうとしたオレの肩を掴んだのは、もちろん不敵な彼女。


「ど・こ・い・く・の?」

 オレに拒否権は、全くないらしい。
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