理想恋愛屋
 まるでウサギを見つけた狼だ。

彼女が光らせるイキイキとしたつり目がちの瞳には、全くもって勝てる気がしない。

そして更に厄介なことに、息ぴったりの秋さんもなかなかのラケットさばき。


「勝負となったら葵ちゃんでも負けられないの。ゴメンネ?」


 嬉しそうに片目をつぶってみせきた。

いい加減、色仕掛けはやめてほしいもんだ。


 複雑になりながらも、とりあえず目の前に飛んできたピンポン玉を打ち返すのが精一杯なのはオレ。


 呆気なく惨敗。
……に思えるだろ?


なんと、水を得た魚の化身が隣にいたのだ。


「これでも学生時代は卓球部だったんですよ」

 言われてみれば、そういわれて違和感はない。

決してサッカーや野球のように声を出し合ったり、身体を張るスポーツは似合わなさすぎる。


 そんな遠慮がちにいうオトメくんに目をつけたのは彼女だ。


「なかなか、やるわね!」

 今までにないほどカッコよく見えるオトメくん。

「遥姫さんこそ!」

 華麗にバックハンドに替えて切り込むように打ち付ける秋さん。

「アタシ抜きで話さないでくれるかしら?」


 なにがすごいって、全てラリーしながらだ。

呆気にとられていたオレは、研ぎ澄まされた彼女の視線と運悪くぶつかってしまう。


オレの表情を読み取ったのか、彼女の唇の端がかすかに釣りあがったのを見逃さなかった。


 なんとなく、嫌な予感がする。


< 184 / 307 >

この作品をシェア

pagetop