理想恋愛屋
<ご存じのことかと思いますが、
彼女とお話ができたらと思っております。

 私から直接連絡するのもぶしつけですので、
どうか社長のご仲介の程、よろしくお願いします。

        一ノ瀬 匠>

「やっぱ、そうだよなぁ……」

 チクリと胸が痛むのは確か。

だけど、萌に対する絶対の自信はなかった。


こんなオレより、きっと彼のほうが萌を大切にしてくれる。

そんな不安が渦巻いて、早速返事をしてしまった。


<一ノ瀬 匠 様

 ご連絡ありがとうございます。
先方にアポをとってみますので
もうしばらくお待ちください。

            葵>


 自分でも思うよ、オレって最低。


 好きだった女を紹介するっていうのも、正直気分はよくない。

引きずっていた相手だから尚更だった。

しかも、それを気に入ったのが金持ちだし仕事もできるし、イイ男なわけで。


 オレなんか比較対象なんかじゃないだろう。


 それに、何よりも萌は言ったんだ。


「待ってた、ねぇ……」


 気づかないとでも思ってんのかな?

それが過去形だってこと。




 今のオレは思い出に浸ってる暇はない。

まもなく見えてきたこの辺りじゃ有名な料亭の駐車場に、シルバーのマイカーを滑り込ませる。


「ふあ~!狭かったぁ」

 腕をピンと伸ばして、タイトな白いシャツから小さなおへそをのぞかせる。

「つべこべ文句を言うな」

 ただでさえ、タバコも吸わせてももらえずイラだってるっていうのに。

駐車場独特の砂利を踏みしめた。


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