理想恋愛屋
 そのカワイイとやらの彼女の顔をみて、そういえば、とスッと浴衣の裾から白い封筒を出す。

「あの子に写真返さなきゃ」

 どこもかしこも白い少女は、独特な雰囲気をもっていた。

か細い少女と、この一面を覆う写真はどこか似ているのかもしれない。

そんな想いにはせていると、お構いナシに目の前にいた彼女がものすごい速さで手のひらから奪い取る。

「ちょっと、お前……っ」

 せめて声をかけてから、とかあっていいと思うんだが。

膝を立てて前のめりになり取り返そうとしたが、簡単にヒョイと逃げられる。

そんな彼女が、頬杖をついてまじまじと写真を見つめ眉をしかめた。


「あたし、なぁんか見たことあるのよねぇ」

「は?」

 きょとんとしたオレを見て、兄は彼女からそれを受け取る。

覗き込んだ萌も、「いわれてみれば……」と一緒になって頭を抱えていた、そんなときだ。


「これ、裏山だわ」

 突然の背後からの見知らぬ声に、オレたちはそろってビクンと肩を震わせた。

「ごめんなさい、驚かせてしまって」

 くすくすと笑っているのは、卓球場で声をかけてくれた仲居さんだ。

工事現場のように心臓が未だに走っている中言葉を続けてしまったから、思わず言葉がどもってしまう。

「あ、あの、裏山って……?」

「ほら、縁側から出ると散歩道があるでしょう?」

 オトメくんが少女に告白っぽいことされていたあの道のことだ。

涼しげで、虫の音がやけにきれいに響いていたっけ。

 気づいたオレと秋さんは顔を見合わせた。

「あそこをまっすぐ道のりにいくと山に入れるのよ」

 露天風呂から見えた青々とした緑が連なるあの山なのだろう。

今日出てきたご馳走の山菜も、確かそこで収穫されているはずだ。



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