理想恋愛屋
 しかしいつの間にやら一緒に身を乗り出した仲居さんは、兄が手にしている写真をすらすらと謎といていく。

「…写真の建物は、幽霊屋敷だと思うわ。随分、昔みたいだけど」

 仲居さんは不思議そうに、お盆を脇に挟んで笑ってた。

だけど、タダゴトではないその一言。

「ゆ、幽霊、屋敷……?」

 ジワリと嫌な汗がやけに冷える。

嘘だと願いながら聞き返すものの、あっさり否定される。

「ええ、散歩道を山に入らず別れ道沿いにあるお屋敷のことなの」

 どうやら聞き間違いではなかったようだ。


 幽霊なんているわけない……!

ヘンな緊張感がオレをぐるぐると駆け巡る、その瞬間。


「こわいんですか?」

「うっわぁぁぁあああっ!!」

 いきなり肩を叩いてきたのは兄。

きょとんと一瞬間をおいて、事態に気づいた兄は大爆笑。

「ぶふふ…っ」

 必死に口を手で塞ぐ彼女の小ばかにした笑顔も、憎らしい。

「い、いきなりなにするんで……っ」

 オレが反論しようと立ち上がった、その一瞬先だ。

ガタンと大きな音を立ててオトメくんが、柄にもなく走り出してしまった。


「オトメくん!?」

 条件反射のように、追いかけようと腰をあげたときだ。

「幽霊屋敷に行くおつもりじゃ…!?
お客様、興味本意では近づかない方が……っ」

 出入り口のふすまに手をかけて、慌てた仲居さんに振り向く。


「興味本意なんかじゃなく、本気ですよ」


 オレは諭すように、できるだけ笑ってみせた。

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