理想恋愛屋
「瑠璃さんっ、…瑠璃さんっ!」

 慌ててオトメくんが少女の体を揺すってみても、もう反応はない。

まるで、つい先ほどみた雪のような白い顔。


「………瑠璃さん」

 悔しそうにつぶやくオトメくんの肩が微かに上下し、握る拳は小刻みに震えていた。

それと見て、さすがの彼女もバツが悪そうに俯いていた。


 オレだってなんて声をかけていのかわからない。

どれだけ年を重ねても、こんなときの無力さは赤ん坊となんら変わりはないのだ。


 しかし、そんなところに遠くからぱたぱたと足音が響いてくる。


「瑠璃姉っ」

 木々を反響するように聞こえてきた男の子の声。

道の向こう、おそらくあの白い洋館から小さな男の子が駆け寄ってきた。


 息を切らしてやってきたのは、金糸のような柔らかな髪に、いたいけな少女と同じ色の瞳を持つ少年。

オレの腰ぐらいまでしかない身長で、まるで人形のようだ。


 一直線に静かにまぶたを伏せた少女の手を、ぎゅっと握り締めた彼。


痛々しいその姿に、思わず目をそらしてしまったときだ。


「瑠璃姉、またヤったんだね」

 ふう、と呆れたようにため息をつくと、少年は少女の脇の下に肩をいれる。


「は?」

 おもわず彼女と声がそろってしまう。

ぽかんと開いてしまった口のオレたちに気づいた少年は、特段悲しんでいるわけでもない。


 小さな少年に少女が覆うように背負わされ、まるでやどかりのような格好。


「アンタたち、ちょっと手伝ってよ」

 この状態を理解したらしい彼は、年齢に似つかない視線で白い洋館を指す。


「…勘違いしないでよ?瑠璃姉は、死んでなんかいないからね?」


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