理想恋愛屋
 つぶれたオトメくんを、なんとか部屋の入り口にあるソファに横たわらせると、背後から少女が話し始めた。

「カノジョは、ずっと片想いしていた。
体が弱くて家から出られず、ただベッドの上で窓からみる風景しかしらなかったんだ」

 相変わらず表情が分からない少女の横顔。

まっすぐ何かを抜き取るように、冷たい風に揺れるカーテンを見つめている。


「そんなカノジョに、ある日一枚の封筒が届いた」

 少女の言葉に、オレははっと気づく。

忘れ物の、一面真っ白の写真。

 そんなオレの心さえ見透かしているように、少女は続けた。


「そう、お前たちが手にしているそれだ。
……写真の裏に書いてあるだろう?」

 浴衣の裾から取り出して封筒から抜き取る。

気になったのか、彼女も黙って覗き込んできた。


 そこには消えかかった小さな文字で、たった三文字のアルファベットが並んでいた。


『Ryu』と。


「カノジョは療養と称して、体に厳しくない地を転々とした。だから、写真のような景色は初めてだったようだ」


『……雪が、みたい』

頭の中でさきほどみた光景がリピートする。


「念願の『リュウ』と『雪』に会えたのだから、カノジョに未練はなくなったんだろう」

 やっと仕事を終えた、とばかりにふかふかの枕に背中を投げた。


「る、瑠璃さん、そのひとの名前は…?」

 背後で声がしたと思ったら、倒れていたはずのオトメくんが体を起こしていた。


「…カノジョ自身はもう忘れてしまったから、私が名前を貸していた」

「そう、ですか……」

 冷たく言い放つ少女に、オトメくんは肩を落としていた。 

それでも、先ほどまでやわらかく笑っていた少女が目に焼きついて、オレは複雑な気持ちだった。


「……ない…」


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