理想恋愛屋
 小さな呟きは、今までずっと押し黙っていた彼女の声。

悔しそうにうつむいていた彼女の拳は、ふるふると震えている。

「おい、はる……っ」

 肩に手をかけようとした、その瞬間。


「許せないぃぃいい!!」


 まさに怒り狂った、鬼神。

夜空に星が瞬いているのに、無理やり鶏で朝にするのは、もちろん彼女。


「おい……っ!」

 オレとオトメくんは慣れているにしろ。
…いや、相変わらず彼女の怒りの沸点はわからないけれど。

少女でさえ、目を見開いてキョトンとしている。


 なだめるオレにキッと睨んでくる。

「霊だかなんだかわかんないけどさっ、自分だけが満足してサヨウナラ!?
じゃあ、オトメくんはどうなんのよ!」

 なぜ怒りの矛先がオレにむかってくるのかは分からない。

一ついえることがあるとしたら、こうなったら手がつけられないということぐらいだろうか。


 しどろもどろするオレの背後に視線をずらすと、窓際のベッドで横たわる少女に歩み寄る。

ずっと隣で見守っていた少年・琥珀も、彼女の気迫にさすがに押されていたようだ。


「瑠璃っていったわよね?あんた責任とりなさいよ!」


 彼女の言葉に、一同は絶句する。

ぽかんとする暇もなく畳み掛けていく。

「その容姿、声で笑っていたのはあんたでしょ!?
オトメくんは……っ、そんなあんたが好きだったんだから!!」

 大声で悔しそうに彼女が叫ぶ。


 一見、友達想いに見えるだろうが、勝手に告白しているんだ。

『恋愛屋』としては禁じ手なんだけど、彼女の気持ちもわからないでもなかった。



 どうしようもない気持ちのやり場に少女は受け取るわけでもなく、ただふっと笑っただけだった。



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