理想恋愛屋
「あたしは秋と一緒でも平気だしっ」

 フン、と腕を組んでそっぽをむいた。


 やっぱりわかっていないお嬢様だ。


「あのなぁ…っ!秋さんはああ見えてもオトコなの!」

 ヒッドォイ、と口を尖らせる秋さんはこの際無視。


 オレがいうのもなんだけど、オトコなんて狼と一緒だ。

ましてや、忘れがちだが秋さんは身なりは女でも中身はオトコ。

女の素振りでナニをしでかすかわかったもんじゃない。


「ふーんだ!いいもん、オトメくんと……」

「論外だ!!」


 オカマに女性恐怖症。

なんて一行だろうかと、冷静になればなるほどおかしく感じるが、今はそれどころじゃない。


 あの二人に頼むことが野暮だということは重々承知の上。

しかし、兄である匠さんか同性の萌以外が彼女と同室になることなんて、普通に考えておかしいはずだ。


「んもう!だったら誰なら文句ないのよ!」

 不満を爆発させた彼女は、つり目をさらに吊り上げた。

「だから匠さんか萌に……」

「イヤです~」

 きっぱりという兄に、むしろ清清しささえ感じてしまうほど。


 オレがパチンと手のひらをこすり合わせて兄にへこへこと頭を下げていた背後で、研ぎ澄まされた彼女の言葉。

嫌になるくらい彼女の声だけは、オレの耳が鋭くひろってくる。


「じゃあ…」


 ……―ただし、そういう時は、大抵なにかしら起きるんだ。




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