理想恋愛屋
「葵ならイイわけ?」
彼女のあっさりとした口調に、むしろオレが固まった。
ぽっかりと真っ白になった頭の中では、次第に理解していくその意味に真っ青になる。
「ち、ちが……っ!!」
なんてことを言い出すんだ!
ドギマギする自分を落ち着かせようとしていても、周りの雰囲気はやけに活気付いてくる。
そして動揺しているオレに、更に追い討ちがかかる。
「遥姫もオトナになったんだなぁ」
「あら、お兄ちゃん離れが寂しい?」
遠い目をする兄に、ぴっとり寄り添う萌。
ふふふ、と意味ありげに笑う二人は大いに誤解している。
「ちょっ、なに言って……!」
オレの必死な抗議は聞き入れてもらえず。
「ぼ、僕には瑠璃さんがいますからね!?」
どういうつもりのオトメくんの発言なのかはわからないが、恋をしたってやっぱり彼女との間合いは直らない。
むしろ同室にでもなったら、オトメくんが可哀相だ。
チラリと秋さんに視線をずらすと……。
「あっは、葵ちゃんと一緒になってあげたいんだけどぉ」
袂で口を隠す秋さんは、オレたちが出かけている間にもう一度お湯を堪能したのか、まだシトラスの香りが残っていた。
そんな秋さんは、可愛く舌をだした。
「困ってる葵ちゃんもスキなんだもーん」
キャッと嬉しそうに両手を頬に添えていた。
オレとしては、そんなことより助けてほしかった。