理想恋愛屋
 楽しそうに布団の上で就寝準備を始める彼女。

化粧水すらも弾くような瑞々しい彼女の素肌。

 普段とはまるで変わらず、いつもはほとんどスッピンらしい。


 ちなみにオレはというと―……


「ったく、いつまでそうしてるつもり?」

「うるさいっ、オレに構うな!」


 じろりと小バカにされた視線。

しかし、これが保たなくてはならない彼女との距離。


 他の部屋もそうなのだろうか、和室の中央に二組の布団が寄り添うように敷かれている。


 壁をそろりそろりと、足音にすら気を遣って伝っていく。

彼女が背を向けている間に急いで引き剥がし、迷うことなく壁にぴったりとくっつけた。


 こうすることで、とにかく保身で精一杯だった。


「そんな心配しなくても、葵なんかに襲わせないし」


 さらりといっているけど、意味が違う。


 オレだって嫌がる彼女をどうこうしようなんて、これっぽっちも思っていない。

のちのち誰にも誤解されないようにするためだ!



 ……い、嫌がられなかったらどうなるんだろう?

そんな素朴で邪なキモチがよぎった瞬間だ。


「枕、忘れてるけど?」


 ギクリと背中を震わせてしまったが、顔をあげた先には意地悪そうな彼女。

その手には、おそらく勢いよく引っ張ったために転がってしまっただろうオレの枕。


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