理想恋愛屋
「は?演劇?」

「うん、今知り合いのところで手伝っている児童クラブでやるんだ。それを、ね」

 手伝え、ってか……?


 婚約パーティの招待状とともに、通常の仕事とは関係ない依頼がやってきた。

とても饒舌に話す萌だが、オレにとっては未知の世界だ。

そう簡単に、安請け合いできるわけがない。


「先生は責任者含めて三人、しかもみんな女性だし」

 とにかく人手が足りなくて、と肩を落として困り顔。

可愛らしいのだけど、そうも言っていられない。


「なんでまた、演劇なんだよ」

「それがね……」

 はあ、と珍しく萌が滅入る。


 萌が手伝っている児童クラブは、未就学児から小学生を預かる民間の施設だそうだ。

親が仕事をしていたり、子供たちのふれあいの場としても利用される。


 そんな中、この時期に毎年行われていた紙芝居が急遽中止。

というのも───


「そんなダサイの、イヤ!」

 小さな女の子の一言だったらしい。


「そんなの別に……」

 単なるコドモのワガママだ。一蹴してしまえばいいものを。


「それが、無視できないのよ。
その子の家からは、利用料のほかにも寄付金として運営費をいただいてるらしくて……」

 言いづらそうにはしているが、それが現実なのだろう。


 所詮、世の中金ってか?

オレには皮肉以外に聞こえない。


「まだ何かあるのか?」

 歯切れの悪い萌は、再び口を開く。


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