理想恋愛屋
 その子曰く、

「この前パパとみたサーカスがいいわ!」


 と、目を輝かせて言い切ったそうだ。


「さーかすぅ~?」

 情けない声の出てしまったオレに、さすがの萌も失笑していた。

それは、クラブ側もわかっているのできちんと説明して無理だということをわかってもらったそうなのだが。


次に、目を光らせたのは、

「じゃあ、映画みたいな劇!」

 映画みたい、というのを付け加えるあたり、小憎たらしいったらありゃしない。


 聞いているだけで言葉を失ってしまうオレに対し、落ち込む萌は最近の子供は侮れないわ、とがっくり肩を落とす。


「……まあ、できることは手伝うけどさ……。オレ一人加わったとこで変わらないぜ?」

 珍しい萌の姿に、できれば力になってやりたいとは思う。

けれど、それにだって限界はあるのだ。


しかし、そこでニッコリ笑ったのは萌。


「うん、葵なら人脈があると思って」

 ぱちん、と手を合わせて、最近兄に感化されてきたハラグロスマイルだ。

どうにもこうにも、ちゃっかりしてきたよな。


「まったく……」

 ずいぶん萌もオレの扱いがうまくなったもんだ。


「じゃあ、探して──」

 確か、顧客の中に、そういった演劇関係者もいたはずだ。

何かアドバイスや協力を得られるかもしれない、なんて頭の片隅で考え始め、ソファから腰を上げた瞬間だった。


「いるじゃない」



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