理想恋愛屋
 そう、それまで恐ろしいくらい静かだった彼女。

振り向いてみれば、ニンマリと口角を上げて妖しく笑っている。


「……おま……っ!」


 イヤな予感、炸裂。


「あと二人は確保できるわよねぇ?」

 天井を仰ぐように考えながら、彼女は足を組みかえる。

彼女の言う“二人”が誰のことを指しているのか、想像できてしまう自分が怖い。


そして、その姿にオレは焦る一方だ。


「な、何いってんだ!これはオレと萌の話で……っ」

「あらら、そぉんなこと言っちゃっていいのー?萌さんが浮気してる、なーんて間違って話が広がらなければいいけどぉ?」

 ふふ、と意地悪く笑うこの彼女の表情は、何度となく見てきた。

そして、オレが学習するように、彼女もまた、進歩しているのだ。


 オレへの直接的な脅迫ではなく、他人を使ってきた。しかも萌の婚約者の妹、という立場を最大限に最悪な形として。


本当に手のかかるお姫様だ!


 こういうときは、感情のままいっても聞くわけがない。

一呼吸あけて、オレは彼女を見据える。


「あのなァ、なんでもかんでも首つっこんで──」

「で?劇は何をやるの?」


 オトナになったオレを、完全無視。

身を乗り出した彼女は、萌も食べてしまいそうな勢いだ。


「ま、まだ内容は……」

 戸惑う萌は、チラリとオレに視線を投げる。

っていうか、オレに聞かないでくれよ!むしろ聞きたいのはオレのほうだ!


そもそも、この状況を作ったのは、彼女の前でこんな話を持ちかけた萌だというのに。

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