理想恋愛屋
「こんにちは、先生」

 少しはにかんだように笑う彼女は、いつもとは打って変わる。

なんとも言いがたい微妙な変化なのだけれど、その雰囲気にオレはなじることもできなかった。


「あらあら、こんなに大きくなって。ちょっと見ないうちにキレイになったわね」

「さすがに十六だしね」

 園長はとても嬉しそうに、彼女を上から下へと視線を往復させる。

彼女はそんな様子を、どこか誇らげにすらしていた。


「まさか萌先生が遥姫ちゃんと知り合いだったなんて、びっくりだわ」

「園長、遥姫ちゃんを?」

 ようやくオレの疑問を投げかけてくれた萌に、園長はサラリとオレたちの度肝を抜いた。


「だって彼女もここの出身だもの」

「えっ!?」

「ええっ!?」

 思わず萌と声が重なる。

驚きを隠せずにいるオレたちをよそに、追い討ちをかけるかのごとく、園長は楽しそうに口を開いた。


「懐かしいわねぇ、あんなに引っ込み思案だった子がこんなに堂々としていて。……思わず見違えちゃったわ」

「いやいやいや、嘘だぁ……」

 心の声が思わずこぼれたけれど、園長先生は優しく笑う。


「ずっと人形抱きしめて、タクちゃんの後ろにくっついていたもんね」

「園長先生、そんなことは言わなくていいの!」

 珍しく恥ずかしそうに講義する彼女に、唖然とする。


 意外だ。めちゃくちゃ意外だ。

こんな破天荒という言葉がガッチリ似合う彼女が、引っ込み思案?へそで茶を沸かすどころか、それこそ沸騰を通り越し爆発させてしまうに違いない。


 青天の霹靂、天変地異がおきたのだろうか?
< 227 / 307 >

この作品をシェア

pagetop