理想恋愛屋
 そんなオレの疑心暗鬼を取っ払うように、彼女がずずいと園長に歩み寄る。

「園長先生!それよりもあたしたち、劇しにきたのよ!」

 珍しく彼女が正論を言ったのだ。

それに園長はぱあっと顔を輝かせる。


「まあ、遥姫ちゃんたちが?先生嬉しいわ」

「絶対驚かせて見せるからね」

 彼女の昔を知っているからなのか、兄にも似たゆるぎない信頼を感じる表情。

嬉々とした瞳に微笑む園長は、オレにはまるで母のようにも見えた。

しかし、そんな園長に対し彼女は相変わらず直球勝負だ。


「でも問題児がいるんでしょ?」

「……」

 聞いてるこっちがヒヤヒヤする。

それにも動じない園長は少し眉をピクリと動かし、肯定とも思えるような小さな小さなため息をこぼす。


「まあ、見ててよ。あたし、ギャフンと言わせて見せるから!」

「ソレって都のこと?」

 彼女の意気揚々とした宣戦布告を、どこか呆れたような声音が足元のほうから聞き返してくる。

ゆっくり見下ろせば、肩にかからないほどの綺麗な艶のある黒髪を退屈そうに払った少女。


「み、都ちゃん!」

 黙っていた萌が慌てふためく姿に、どうやらこの子がモンダイの女の子だったことが判明。


「まったく、萌センセイ、顔に出すぎ。園長先生見習ったほうがいーヨ」

 ふふん、と自分が気がかりの種だとわかっていながらの一瞥。


 生意気すぎる態度にオレは開いた口がふさがらない。

勝ち気な視線を送る瞳はまだあどけないくせに、クチと態度は一丁前だ。


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