理想恋愛屋
 それはとても小さくて、まるで砂でつくった城のようにすぐ壊れてしまいそうなほど揺らぐ声。

この年端も行かない少女が、こんなちっぽけなオレのイケナイ虫を知っているわけがないはずなのに。

こうもチクチクと刺激するのはナゼだろうか。


「……どうした…?」

 聞き返したオレに、都はキッとにらみあげて一秒見詰め合う。

そしてふるふると肩を震わせたかとおもったら、不意を狙うかのように、オレの足をドンっと踏みつける。


ああ、もちろん。

じわじわと指先から波打つように伝わる痛覚は脳まで届く。


「いぃってぇえええっ!!」

 思わずあげた叫び声に、教室中の子どもたちはどっと大笑い。


「都ちゃん!」

 さすがの園長も怒りをあらわにしたけれど、オレは手を少し上げて制する。

しょせんはコドモ相手なのだから。


 それすらも気に食わなかったのか、

「バーカ!!」

 そして捨て台詞とともに、都は踵を返して教室を飛び出してしまった。

「都ちゃん、待って!」

 萌が慌てて追いかけていくのを見送りながら、オレはなんとかヤセ我慢することで、オトナとしての威厳を保っているつもりだった。


「おじちゃんイジめられてるー!」

 ケラケラと屈託のない笑い声に、思わず

「い、イジめられてないから!」

 と、反論してしまったのは、さすがにやっぱり痛かったからだ。


 心配そうに見つめる園長の隣で、彼女がたった一言。


「……ふーん、なるほどね」


 その瞳には、ナニが映っていたのだろうか?



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