理想恋愛屋
「まあ、消去法ね」

 あっさりオレの歓喜を打ち砕く辺り、さすがは彼女だろう。

 考えてみれば、男手といったら他には女性恐怖症のオトメくんしかいない。

ジュリエットという女性相手に演じなければならないのだから、オレに矛先が向いたということか。


「そして、ジュリエットは……」

 ゴクリとつばを飲む。

「萌さんにしたわ」


 ……はい?

 嬉しいんだか哀しいんだか怖いんだか。

今回、参加できるメンバーは俺たちと先生3人。その中でジュリエットのイメージに合うのは、やはり萌だと思う。

しかし、元恋人のオレとしては少し複雑だ。ナニか起きるわけではないけれど、やはりどこか苦いモノもある。

更にこんな役どころで、嫉妬深いアノ兄が黙っているのだろうか……?


腹をくくらねばならないのかもしれない。


「ちょっとぉ〜!なぁんでアタシじゃないのよ!」

 秋さんは不満そうに彼女につめよる。が、彼女は笑顔で両肩をがしっと掴む。


「秋には、ピッタリの役をやってもらうわ」

「ピッタリー?」

「そう、キーマンよ!この子がいなければ、物語は成立しないんだから!」

 聞こえはいいが、演劇は役全てにきちんとした意味がある。なので、全ての役がキーマンなのだとオレは思うのだが……

嬉しそうに「仕方ないわねぇ」と秋さんは納得していたので、言葉を飲み込んだ。


「あのぅ、僕は何をすれば〜?」

「ああ、オトメくんは気の弱い友達役よ」

 そのまんまかい!

と、思わず心の中でツッコんでしまったが、どうやら彼女の自身ありげな表情を見ると、なかなかの責任もありそうな役どころだ。

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