理想恋愛屋
 ひょっこりと扉から顔だけ出して見下ろすと、都も気づいたようにはっと顔を見上げ、目が合うなり視線を反らされる。

オニイサン、少し傷ついたよ?

「あ、もしかして園長?」

「ちっ、ちがう」

「ああ、他の先生か。ちょっと待っ──」

「それもちがうっ」

 慌てて首を振る都に、オレは首をかしげた。

あまりにも言いづらそうにするから静かに部屋を出て、しゃがみこむように都の顔を覗き込んでみる。

すると、俯いたまま視線だけをずらして、クリっとした瞳がオレを捉える。


「……ぁ、アンタに……」


 小さな下駄箱が並ぶ玄関口を出て、これまた小さな校庭のような庭に連れ出される。


 はてさて、オレが何かしたっけ?

考えてみるも、昨日も今日も劇をしていただけだ。

それともやはり気に入らず、罵詈雑言あびせられるとでもいうのだろうか。


なんて、考えを巡らせていた。


「……あの」

 どうにもらしくなく、どうやら劇のデキに関してでもなさそうだった。


 ということは誰にもいえない悩みとか?

それにしたって、相手にオレを選ぶなんて奇特なヤツだな。


「聞きたい事、ある」

「ん、どうした?」

 カタコトに話す都に聞き返すも、それ以上なかなか続かない。

ぼそぼそと虫の息のように何かを呟き、どれほどの時間が経ったかわからないが、部屋からの笑い声が微かに漏れてきたときだった。


「ちゃんと、答えて欲しい、んだけど」

 そういって意を決めたように、キッと見上げてくる。

「な、なんだよ……」

 その強いまなざしに、なぜか逃げられないような気がしてドキッとした。


「遥姫が、スキなの?」




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