理想恋愛屋
 その会話といったら、かなり慣れている雰囲気に唖然とした。

彼女がこんな言い合いをする相手といったらオレだけだと思っていた。むしろ、彼女が飲み込まれそうにすら見えるのだ。


「本当にトラちゃんってば、昔から遥姫ちゃんのことが好きよね」

 二人の圧倒的な会話に割り込む園長は、まさに勇者のごとく。


「園長先生、ボクは誓ってるんだ。遥姫をお嫁さんにするって」

 クソ寒いセリフを、彼は恥らうことなく笑顔で言ってみせる。

ある意味尊敬すら覚えるオレは、相変わらず蚊帳の外だったんだけど。


「あたしはアンタと結婚する気なんて微塵もないの!勝手なこと言わないでよ!」

「え、もしかしてタクちゃん離れでもしたのっ?」

「うさいわねー!」

「じゃあ、彼氏でもできたわけ?」

「関係ないでしょっ」

 彼女が口問答で語尾をあげて苛立っている。

アノ彼女が、だ。


しかし、感心していたオレに次第に周囲から視線が注がれる。


 ────ん……?


「あ、あの、ナニカ?」

 ようやく声を出したはいいが、ジワリと嫌な汗が背中を伝う。

そしてそれに気づいたように彼がずんずんとオレに向かってくる。


「あなたが、遥姫の彼氏?」


 は?どうなってんの、コレ!


「えっ、ちょっと、言ってる意味が……」

 さっきまでの可愛らしい笑顔はどこかへ、殺気だった彼は今にも噛み付いてきそうだった。

オレはチラリと彼女を盗み見するも、彼女は疲れたように額に手をやりため息をつくだけ。

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