理想恋愛屋
 彼の問いと同時に、ぐいっと引っ張られるように彼女は腕を絡めてきた。

驚く間もなく、ふわり、とスカートをなびかせたかと思うと、オレと並ぶようにしてもう一度向き直る。



「アンタの言うとおり、あたしこの人と付き合ってるの」



 ………は…はぁああああっ!?

「ちょ──っ」

 オレが思わず叫びそうになったところで、彼女は回していた腕の内側をギュッとつねってくるもんだから、痛みで声が続かない。

くっそう!と恨めしげに睨んでみるが、彼女は彼を笑顔で押し返すように見つめている。


「……ふうん…」

 怪訝そうな彼からの視線に、そりゃもうってくらい心地悪い。


「だから諦めなさい」

 彼女の見下したような瞳に彼は負けなかった。


「ねえ、遥姫。当然結婚を前提にしてるってことだよね?」

 綺麗な顔をしているヤツというのは、本当に厄介だ。

笑っていても時に冷徹に見えるのだ。


そして挑発するような言葉に、彼女は

「も、もちろんよ!」

 と大見得をきるもんだから。

「そう、ならいいんだ」

 彼女にも緊張が走り、オレも固唾を飲み込む。

彼は前髪をかきあげ、無駄に色気を振りまいてオレの目の前に立ちはだかる。


そして、ゆっくりと手を差し出してきた。



「今日からあなたは、ボクの好敵手-ライバル-だ」


 青天の霹靂ともいえる宣戦布告がなされたのだった。


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