理想恋愛屋
「どうして遥姫だったのかは分からない。でも、トラの片思いは今でもずっと続いてるんだ」

 そういってオレを見つめる兄。

その瞳は見たことのないほど、一際射るように厳しいものだった。


「現に、病院にいるっていうのにトラから電話がかかってきてね。遥姫を迎えに行ってもいいか、なんて僕に聞いてくるくらいだよ」

 そこでフと気づく。

園長もエセ王子も口にした“タクちゃん”とやらの正体は、今目の前にいる兄である匠-タクミ-さんだ。


 エセ王子の想いとやらもさることながら、彼女の匠さんへの想いの深さも一級品だ。

ここでまたあのときの──萌とのデートを潜入したときに流した涙の重さも、今更ながらのしかかってくる。



「で、葵さんは何を聞きたい?」

 いつものハラ黒スマイルの兄に言葉をなくした。

さすがはあのイチノセの幹部だ、オレに何も言わせないつもりらしい。


「……そうだな、じゃあ、1個だけ」


 彼女といい兄といい、オレの扱いがうま過ぎて白旗を振るしか残っていないのだ。

一応、兄から『妹を頼む』って言われてるしな。


「彼を納得させるためにはどうしたらいい?」


 いろいろとってつけたような理由を並べてみるも、やっぱり考えるのは彼女の無邪気な笑顔だった。


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