理想恋愛屋
「おい、どうし──たぁあああっ!?」

 外したはずのマフラーが落ちていたことに気づかず、見事足に絡まり身体は傾く。

なんとかバランスを保とうとつんのめり、格好悪いが、両足でぴょこぴょこ進むハメに。


 よし、あと少しで壁だ!


 いつもなら彼女に突っ込んでいたところだけど、幸いして誰もいない入り口方面だ。

過失はないはず、だった。


「どうもー」

 そういって開かれた扉により、不意に人影が現れた。


「えぇぇっ……!?」


 嘘だろう!?

信じられない人身事故に、思わず目をつぶった。



 しかし、意外と痛みはなく、冷たい壁ではなく温かい生地が頬に当たっていた。

ばっと顔をあげると、そこには信じられない人が倒れこんだオレを受け止めている。


「いつまでそうしてるんです?女性以外はお断りしてるんですけど」

 それは最近覚えた声主。


「こ、虎太郎くん……?」

 まさに先日オレが彼女を抱きとめたように、オレが彼に抱きとめてもらっているのだ。

コトの事態に気づき、あわてて足元からマフラーを引っこ抜いて距離を置いた。


「す、すすすみませんっ」

「まったくですよ。僕フェミニストなんで、次はないですよ?」

 そういってあのエセ王子が、ぱっぱと肩をはたいていた。


「ってか、なんでトラがここにいんのよ!」

 苛立った口調の彼女が思い腰を上げて睨みつけている。

自分でフェミニストと名乗るだけはあり、彼女から暴言がでようと彼は笑って受け止める。


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