理想恋愛屋
「やあ、姫。迎えに来たよ」

「だーかーらーっ!」

 彼女が噴火寸前のところで、ポカっとエセ王子の頭にナニカが落ちる。

「いたっ」

 エセ王子は小さな悲鳴をあげると肩をすくめて、その背後を見やる。


「まったく、お前は急ぎすぎや」


 それは聞き覚えのある独特の話し方で、なんとなく嫌な予感がし始めた。

ゆっくりと事務所に踏み入れたのは、予想通り、彼女の屋敷付近で勝手に車に乗ってきた老人だった。



「え、な、なんでココに……」

「悪いなァ兄ちゃん」

 唖然としているオレを、見据えるような昨日勝手に車に乗り込んできた老人。

意地悪く笑ってみせる老人に、オレはさっぱり理解が出来ないでいた。


「ちょっと、葵どういうことよ!?」

 そんな中彼女がグイっとネクタイをひねりあげるもんだから、余計混乱する。


「いやいやいや!オレが聞きたいんだけどっ」

 っていうか、コノヒトって一体……?


 オレの慌てっぷりを見て彼女はハッと何かに気づいたように、あの老人に向き直る。

そして彼女が口を開く前にけん制するかのように、トン、と杖をついた。


「兄ちゃんを認めるわけにはいかんのや」


 ……ど、どういうことだ?

しかし彼女はオレの前に立ちはだかり、老人と睨み合う。


「お前は言っただろう、“なんでもやる”と」

 その言葉には、どこか聞き覚えがあって必死に思い出そうとしていたのだけど。

その前に、あのエセ王子が彼女の肩を軽くポンと叩いた。

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