理想恋愛屋
 あの突如ハリケーンのように現れた彼女たちと落ち着いて話をするため、事務所のソファに腰を落とす。

「トラ、遥姫の学校に連絡いれといてや」

 まるで秘書のように扱うも、エセ王子は「わかりました」と素直に従う。

事務所を出た彼を見届け、老人──もとい貴義氏は笑う。

「こないだはスマンなァ、兄チャン。騙すようなことしちゃって」

 全く悪びれた様子は伺えない言葉。


「兄チャンのこと調べさせてもらったわ」

「……はい…」


 オレはただただ恐縮するばかり。

なんて答えればいいのだ、この状況で。


「まさか遥姫がオトコ見つけてくるとは想定外だったからなァ」

「なんだっていいでしょ!?」

「なんや金魚のフンみたいに匠について回っていたクセに、一丁前になって」

「あ、それは今でもデス」

 思わず言葉を添えると、左隣に座った彼女がギュッと左のつま先を踏みつけてくる。


「あっはっは、やっぱりなァ。だからお前たちが付き合うのはオカシイやろ?」


 ええ、そうですね……と答えたいのは山々だが、そうなると彼女はどうなるのか。

そんなオレの心中を察したのか、彼女は突如飛びついてきた。


「おじいちゃんはバカね~。確かにお兄ちゃんが大好きだけど、その次くらいに“スキ”なのよ。ねえ、ダーリン?」

 それはそれは甘い言葉に聞こえるだろうが、実際は脅しのかかった語尾に背中の薄い皮を摘まれている。

恐ろしいオンナである。


「あ、アハハ……ソウデスネ……」

 覚えてやがれ!と恨みをそっと閉まってフォローする。



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