理想恋愛屋
「……そうか、やっぱりそうくるかァ」

 貴義氏が呟くと同時に、電話を終えたエセ王子が部屋に戻り、無言のまま貴義氏の隣に座る。

そしてずっと抱きついたままの格好のオレたちを見比べる。


「んー、なぁんか不自然ですよねぇ」

 小首をかしげる彼に、オレはダラダラと冷や汗をかく一方。

それは貴義氏もそう思っているのだろうが、あえて口に出さない辺り、余計プレッシャーを与えることを知っているのだろう。


 焦点が合わないオレに、ふっと頬を緩めたかと思うと、貴義氏はポンと両膝を叩く。


「よっしゃ、トラ。帰るぞ」

「えっ、あ、はい。でも……」

 戸惑うエセ王子とは反対にオレはどっと肩の荷が下りる。

しかし腰を上げた貴義氏はキッと彼女を見据える。


「遥姫、約束は守れや」

「……わかってる…」

 彼女はらしくもなく、口を尖らせて答えていた。


「じゃあ、兄ちゃん。今日ばかりは遥姫を学校までよろしく頼むよ」

 いきなり悪いかったなァ、と、さっきまでの貴義氏ではなく、本当に彼女の祖父としての言葉のように聞こえた。

飄々とした後姿は、まさかさっきまで威圧しまくっていた人とは思えない。


そして後を追うようにエセ王子も、「また放課後ね」と、一言を残して姿を消した。





「……おい、一体どうしてこうなった」


 もはや気疲れで身体が動かず、隣にいる彼女に視線だけをずらす。

彼女は観念したように、ソファにうなだれるようにドサッと背中を預けた。


「夏の旅行、覚えてる?」

 そりゃもちろん散々なこともあったが、なによりもオトメくんの恋が始まったのだ。

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