理想恋愛屋
「そんな話をどうやって聞きつけたか、トラがお祖父ちゃんに取り入ったってワケ」

 はい、おしまい、と紙芝居でもしていたかのように話を終わらす彼女。

ツンとすました表情の彼女とは反対に、オレは怒っていた。


「どうして、そんな大事なことを──っ」


 そういう彼女のキモチも知らず、簡単に彼女の恋人のフリをしていたなんて。

どういう経緯であれ、今彼女の隣にいるのはオレであり、彼女を守らねばならないのは、ほかでもないオレなのだ。


「どうだっていいの、そんなの」

「んな、なんてこと……っ」


 そんなオレの感情を一蹴した彼女に、少しだけチクンと胸が痛む。

対して理解もしてやれていないかもしれないが、それだけの存在だったのだろうか。


 と思うよりも早く、彼女は疲れたように零す。


「もっと大変なことが起きたから」


 タイヘンなこと?


オレの疑問が伝わったのか、けれど彼女は言いづらそうにチラチラとまつげを震わす。


 可愛い顔立ちがするそれはたしかにドキドキする。

だが、今のオレはそれよりも、彼女の言葉が決してイイコトではないことを予感させるからだ。


「来週のお兄ちゃんたちの婚約パーティで、お披露目するんだって」

「は?ナニを……?」


 もったいぶるような彼女の唇は、オレをとことん狂わす。

アレもコレも、いろいろやらなきゃならないことはたくさんあるんだが。



「あたしの“恋人”」


 こ、恋人って……もしかして…。


「お、オレ……?」




 ひとまず、一週間はなにもできなさそうだ。

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