理想恋愛屋
 彼も彼女と付き合いが長いかもしれないが、オレだって過ごした時間は決して短くはない。

もしこの話を彼女が耳にしたら──


「身を引くどころか、賛成するでしょうね……」


 ワクワクしたように瞳を輝かせ、自信たっぷりに「面白いじゃない、受けて立つわ!」とでもいうだろう。


オレの想像が彼にも伝わったようで、彼は更に追い討ちをかけてくる。


「そう。そして更にややこしいことになると思います」

 エセ王子は懐かしむように笑っている。

こんな想いをしているのは、なにもオレだけじゃないのだろうか。


なんて仲間意識も若干芽生えたのだが──彼のオレをみる目は、対等だ。



「……わかりました、お受けします」


 オレが勝手に決めたら彼女は怒るだろう。

それでも、これだけはオレと彼の譲れない戦いになるのだ。


「勝負内容は決めてくださってかまいませんよ」

「いや、言われたばかりで考えつかないし。虎太郎くんは何かない?」

「ん~……そうですねぇ」


 オレたちはまるで飲みに行く約束をするかのように、笑いも交えて話を進める。

こんな形じゃなかったら、もしかしたら意外と仲良くなれたのかもと思った。


 彼は天井を仰ぎ見ながら手で顎をさするように考え、そして、再び笑ってみせる。


「料理、なんてどうです?ジャンルはなんでもいい。
ただし……」


 オレだって一人暮らしだし、料理が出来ないわけではない。

しかし彼の眼差しにキラリと鋭い光を垣間見て、不安が疼く。


「遥姫が好きなもの、で」

 それはごくごくシンプルなのだけれど、難題がオレに課されたのだった。

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