理想恋愛屋
「葵さーん!」

 でかいホールに響き渡る聞き覚えのある声。

オレは驚きと恥ずかしさでいっぱいになりながら振り返る。


そこには柄にもなく燕尾服に蝶ネクタイを身に着けつつ、でれーんと鼻の下を伸ばしたオトメくんがいた。

しかもそれだけではない。


「久しいな」

 と、白い肌を自慢するかのようなフリルやリボンがたくさんついた黒のワンピース姿の、いわゆるゴスロリ系とでもいう、オカルト少女·瑠璃までいる。

オトメくんと腕を組んでいるのだから、尚更、違和感だらけだ。


「瑠璃さんから連絡あったんですよ!僕、明日死んでしまうかもしれないです……」

「む、言い残したことがあれば、私が呼び戻してやる」

 恍惚とした表情をするオトメくんに、腕を絡めていたオカルト少女はマジメな顔で答える。

オトメくんが死ぬことが前提な話をしている二人に、ツッコむ気さえ失せる。


 デコボコな二人ではあるけれど、これはこれでいい組み合わせなのかもしれない。


 …──だが、それにしたって。

「どうなってるんだ、一体……」

 ガックシと肩を落とすオレを見た隣の兄は、ああ、と楽しそうに付け加えてくる。

「遥姫がお世話になってる人は一通り呼んでますよ」

 と、余計なことをしでかしてくれたことを、今更ながら知るハメになる。


 ってことは───……


「あ·お·い·チャン!」

 つうーっと背筋をなぞるように滑り落ちる感触にゾワゾワと身の毛がよだつ。

おまけにふうっと耳にかかる吐息で、鳥肌全開だ。

 ひいいぃぃいいィ……っ!!

「えっへへ~、今日はアタシまでありがと!」

 頬を桃色に染めた秋さんは、あのいかにもなペラッペラなドレスではなく、上品なブルーのロングドレス姿で気合を感じる。

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