理想恋愛屋
「あ、秋さんまで……」

「匠サマから聞いたわ!遥姫と婚約ですって?」

「はあっ!?」

 いろいろとツッコミたいことが山ほどあるのだが、秋さんの勢いは止まらない。

「そういうことなら、仕方ないわ。匠サマがイロイロ紹介してくださるってことで話はついてるから」

 パチっと片目をつぶって星を飛ばしてきたが、いやいやいや、勝手に話をつけないで欲しいところだ。

「あの、秋さん。これには深い事情が──…」

 と言いかけたときだった。

「あー、いたいた」

 パタパタと足音とともに聞きなれた声がして、何気なく振り返ると、そこにはオレの知らない彼女がいた。


 いや、訂正しよう。

見たこともないほどに年齢相応に愛らしく、そして美しく着飾っていたのだ。


さっぱりした淡いクセ毛はまるで計算しつくされたようにアレンジされ。

鮮やかなワインレッドのワンピースは、彼女にしては大人びて見えるけれど、その分白い肌が際立って見える。


「うふふ、お邪魔みたいね。先に会場いってるワ」

 と秋さんは、いつまでもイチャイチャしているオトメくんたちの背中をグイグイと押していく。

釈明すらできなかったのだが、まあ、それは後でもなんとかなるだろう。


「……で?なんか文句でもあるワケ?」

 オレがジーッと見ていたのを怪訝に思った彼女は、早々にいつものように悪態をつく。


 このクチさえなければ、素直に褒めてやるものを!


「イイエ、なんでもないデス」

 はあ、とため息を一つ零すと、背後で気配がした。


「なんなら代わります?恋愛屋さん」


 それは最近オレを悩ます一人でもある、あのエセ王子だ。

彼もまたこの場に相応しいようにフォーマルを着こなし、口を開かなければ本当に王子様のようだ。


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