理想恋愛屋
「アンタは呼んでないわよ、トラ!」

「冷たいなぁ、遥姫は。昔はあーんなに一緒にいたのに」

「そうね、トラは昔のほうがちっちゃい分可愛かったわね!」

「ボクは今でも可愛いでショ?」


 まさに犬猿の仲……ではないか、彼にいたってはラブコールをしているのだし。

二人の関係をどう例えようかと考えていると、ぐいっと腕を引っ張られる。


「ほーら、いくわよ!ダーリン!!」

 愛情のひと欠片も感じない強調された呼びかけに、思わずもう一つため息。


「ハイハイ、承知しましたよ……ハニー」

 彼らの陰謀ではないかとさえ思ってしまうほど笑顔の兄と萌に見送られ、引きずられるように入り口を後にした。


 彼女がイノシシのように突き進んでいくのは、先ほどからずっと腹を刺激するような香りを出している、会場の壁際にある料理が並べてある一角。

立食とはいえ、かなりの人数がいるから料理の品数も半端なく多かった。


「まったく!油断もスキもあったもんじゃないわ!」

 こうなったら食べつくしてやる!と、一人でぷりぷりと怒り出す彼女の後姿に、オレは疑問だった。


「なあ、なんで虎太郎くんじゃダメなの?」

「は!?葵までなんなのよ!」

 怒りが噴火した彼女の形相は、それはそれは迫力があるもの。

大分ストレスがたまっているところを見ると、家でも貴義氏といろいろあったことが伺える。


「そんなに怒るなって。……冷静に考えろてもみろよ?オレなんかより虎太郎くんは若くてカッコイイし」


 あれ、なんか自分で言ってて情けなくなってきたんだけど。

……とはいえず、ぐっと堪えて話を進める。


「仕事もきちんとしてそうだし、優しいし……」

 女性限定だけど、な。


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