理想恋愛屋
 間髪入れたその言葉に、オレは声も出ない。

それすらも見通していたのか、前を向いたまま貴義氏は続けた。


「隠せてると思ってんのやったら、調べたりせぇへんわ」

「じゃあ、なんで……」

 しかし貴義氏はオレの問いに答えず、少しオレに振り返るようにはにかむだけだった。


「遅かったですね」

 厨房の一番奥で、シェフたちと同じ格好のエセ王子が待ちかまえていた。

その姿は妙に板についていて、オレはゴクリとつばを飲み込む。


「兄ちゃん、二言は許さへんよ?」

 そんな鋭い重圧に必死に絶えて、オレは苦し紛れに笑ってみせる。


「もちろんです」

「ボクもです」

 後に続いたエセ王子も、それなりの覚悟があるみたいだ。


「では、取りかかってくれ」





 一か八かの人生最大の大勝負。


彼女への“愛”を賭けた戦いのゴングは、静かに鳴り響いた──……




.
< 286 / 307 >

この作品をシェア

pagetop