理想恋愛屋
「いやー、社長も楽じゃないよなぁ?この前なんか常務に……」

「あ・な・た!」

 愚痴っぽく肩を落とす彼女の父に、ぴしっと奥さんからお叱りが飛び背筋が再び伸びる。

尻に敷かれているのか、信頼関係がよくできているのか。


「あ、あはは、すまんね」

 苦笑いするその姿になんとなく親近感を沸いてしまう。

きっと一緒に飲む酒は、さぞかしうまいことだろう。


「お父さんったら」

 呆れる彼女の気持ちもわかるが、こうしてみている風景はとても微笑ましい。

なんだかんだでいい夫婦だと思う。


「待たせたなァ」

 そういって部屋に入ってきたのは貴義氏。

ガラリと一気に空気が変わり、さっきまでもじもじしていた彼女の父親が嘘みたく険しい顔になった。


「ほな始めようや」

 貴義氏は口に運ばないらしく、彼女たちと少し離れたところに椅子だけを用意させて腰掛けた。


「溶けないうちに、ボクの方から」

 エセ王子はガラガラとワゴンを彼女たちのテーブルの前につけ、すっと蓋を外す。

すると、ふわりと甘い香りが漂い、緊張していたオレでさえ引き込まれるようだった。


 純白の皿には黄金色の薄いクレープがしかれ、ベリーやオレンジなどの様々なフルーツが色とりどりに、ピンクに橙、グリーンの三色煌くアイスクリーム。

縁には、この季節を現すかのように雪の結晶をかたどった赤褐色の飴細工が散りばめられている。

 彼女の好み、つまりアイスに合わせてきたのは当然だろう。


 まず最初に彼女の間へ経皿を丁寧に差し出した彼は、手馴れたように薦める。


「クレープと三種のソルベです」


 そして、見た目もスイーツの『味』の一つだ。

どこかのジュエリーかと思えるような、そんなオシャレなデザートを前にオレはすでに意気消沈気味。




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