理想恋愛屋
「さすがはトラちゃん」

 感動するように褒め称える母親は続けて、オレをどん底に突き落とす。


「ご実家がケーキ屋さんだったわよね?」

 はあ!?そんなこと、一つも聞いていない!

オレの焦りに気づいたのかはわからないが、すこし苦笑を交えたエセ王子は


「小さなカフェですよ」

 と、それでもオレの圧倒的不利は変わらない訂正をする。

妙に板に付いていたコック姿を思い出しては、落ち込むばかりだ。


 母親と父親へ並べられたのを見て、彼女はそっと顔の前で両手をあわせる。


「じゃあ、いただきます」

 スイーツを目の前にした彼女は勝負なんて忘れたのか、一際嬉しそうにゆっくりスプーンを差し込んで口の中に放り込んだ。


「うわ、たくさんのフルーツの味がする」

 満足そうに微笑む彼女をみて──オレは、もう何も言えなくなっていた。



 一体何のために頑張ったのか。

彼女から依頼されたから……ってのは、多分、建前なんだ。



 彼女が喜ぶのなら、笑ってくれるのなら──


頑張ってみるのもいいかなって思ってたんだ。



「おいしかったわ、ごちそうさま」

 そう言って彼女は空になった皿にスプーンを添え、口元を拭きながらチラリとオレのほうを見てくる。

呆けていたオレに睨みを利かせ、声を出さずにゆっくり口を動かすから、なんとなくその言葉を読み取る。


「……っ!」



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