理想恋愛屋
「な、なにが……」

 心の中を探られているようで、なんとも心地が悪い。

それを察したように、彼女はぱっと手を放した。


「ま、本物のアロハ家には敵わないけど、ネ?」

 小憎たらしくチラリと視線だけ見上げてくるのは、いつもの彼女。


「…な、なんで、わかったんだよ…!」

「毎日食べてるあたしの舌をナメないでくれる?」

 とよくわからない彼女の自慢。


 あの勝負を快諾した日、オレは悩んだ。

パソコンで必死にレシピを探してみても、これだというものがみつからず、どうしようかと中身の少ない頭をフル回転させた。


「どう考えたって、彼女を満足させられるわけがない……」


 ため息を零して窓の外を見て、オレは気づいた。

今までこの事務所の前で、散々事件を見守ってきたアイス屋台があることに。


 そして、オレは初めてこの屋台へ訪れ、


「どうか、お願いです!レシピを教えてください!!」


 常連でもなんでもないオレだったけれど、この際、なりふりかまっていられない。

何度も額を地面にこすり付けて、頼み込んだ。


 そのオレの苦労をあたかも楽しむかのように、彼女はケラケラ笑い出したのだ。


「そんなしもやけの手見せられたら、同情だってしたくなるわ」

 と口では随分ヒドイことを言っている。

しかし、その瞳はどこか優しげに見えたのはオレだけだろうか。



「あたしも“しもやけ”できるかしら?」

 なんて皮肉を交えて意地悪く見上げてくる彼女には、お見通しなのだろう。



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