理想恋愛屋
 廊下にはもう彼女の姿は見えなくなっていて、あわてて料亭を飛び出る。

出がけに簡単に挨拶をすると女将から、小さな箱を持たせてくれた。


「なんですか?」

 オレの問いに、粋にもニコリと微笑むだけだ。

とりあえず受け取って、駐車場にとめてあるマイカーの元へ。


 すでに、助手席にはそっぽを向いた彼女が乗り込んでいた。

運転席に乗り込むと、彼女は変わらず頬杖を付いてじぃっと外を見つめていた。

その彼女の膝の上に先ほどもらった箱を置いて、オレはキーを差し込んでエンジンをかける。


「なにこれ」

 いつものあのツンケンした声が隣から降ってくる。

「さあ?」

 簡単に答えて、ギアを変えて車を発進させた。


 ガサゴソと箱が解体される音が車内に響く。

気にしつつも、どうにも運悪く信号が青で並ぶもんだから確認できてない。


「わぁ〜!」

 歓喜の声に、一瞬チラリと視線を横にずらすと、小さな深い緑色のカップが見えた。

「なんなんだ?」

「うんまぁぁあい!」

 答えの代わりに感想が返ってくる。


 なんなんだ、一体?


 ようやく赤で車が止まると、小さなスプーンでひんやりと冷気を帯びた緑色を口に放り込んでいる彼女。


「……さっきの抹茶アイス?」

 オレは覗きこもうとして、それに気づいた彼女。

「あたしのなんだから!」

 見せもしないで遠ざけやがった。

そして、何食わぬ顔でまたほおばる。



 ……悔しいと思わないか?

一口オレによこすとか、そういう優しさってないんだ。


さっき素直に涙する彼女を、ほんのちょこーっとでも可愛いだなんて心の隅っこで思ってしまった自分。


 前言撤回!!


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