理想恋愛屋
「なんなのよ!?どういうことよっ!」

 さすがの彼女も知らなかった様子で、怒りで顔を更に真っ赤にさせた。

にもかかわらず、のんびりとした表情の二人は「ごめんねぇ」と声をそろえながら、気持ちの伝わらない謝罪を口にした。


 詰め寄ろうとした彼女の横で、


「で、証拠写真は撮れた?」

 などと悪戯っぽく笑う秋さんが向かったのは、なんと倒れこんだオトメくん。

その手には、信じたくはないが、おそらく彼の仕事道具であろうカメラ。


「いや、ダメですね。秋さん、我慢できてませんでしたもん」

 と写真を確認しながらため息をついたオトメくんは、どうやら大分成長したみたいだ。


 ……──が。

それよりも、まず。


「あーのーなァ……!」

 なんだかんだで、いつもの通りに流されそうなオレは、ようやく乱入者に対して咎めようとしたそのときだった。


「……いつ……つ……」

 地獄の果てから、ふつふつと湧き出るような声。

小さな小さな呟きにも似たそれは、オレの背筋をそうっと逆なでしていく。


「お、おい。はる……」

 彼女の名前を口にしようとした瞬間だ。




「どいつもこいつも、馬鹿にしてぇええええっ」




 事務所を破壊するかのごとく叫んだ彼女の目には、血柱が奔っている。

そのすさまじい怒気に、さすがの秋さんも引いている。


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