理想恋愛屋
「さ、遥姫さん、葵さん」

 おいおい、女性恐怖症はどうなった?


「さっきの続きでもしたら?」

 惚れっぽさと失恋グセは治ったのかよ?


「仲良くね」

 と、その言葉を合図にするかのように、ドンと勢いよく目の前に押し出される。

そのまま二人は、さっさかと事務所を飛び出してしまったのだけど。





「えっ、ちょ……まっ…!」


「……んな……っ」



 彼女の戸惑う声は次第に悲鳴にへと変化して、オレは起こしたくもない事故に巻き込まれていく。


 そんな中、事務所の扉はガタつきながら、再び開かれる。


「こんにちは、恋愛屋さん。ボクもやっぱり諦められないので、しばらくお世話になろうかと……」

 タイミング悪くやってきたのは、あのエセ王子。

この惨状を目の当たりにして、どう思うのかぜひとも聞いてみたいところだが。



 今のオレにはそんなことよりも──



「……こンの……」

 満ち溢れた怒りは、全てソレに凝縮される。


「ちょ……っ、待ったぁぁあああっ!!」

 オレの制止は報われない。



「変態屋ぁあああああぁっ」



 空を切り、乾いた音。


それと、本日二度目の悲鳴がビルに響き渡る。


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