理想恋愛屋
 アイスも食べ終わって見慣れた景色に変わる頃。

いや、オレは食ってないけど。

実は箱の中にカップは2つあって、両方ともなくなっていた事は敢えて言わなかったけど。


すうすうと息が規則正しく聞こえてきた。

隣を盗み見すると、シートに身を沈めた彼女の寝顔。


どんなに強がったり、キツイことを言っていたって、花の女子高生。

天使のような寝顔は健在だ。

むしろこっちのほうが、口がない分可愛いもんだ。


 って言っても、別にロリコンじゃないからな!?


 けれど、眠ってしまったはいいが、困ったことに彼女の家がわからない。


 今日だって、休日だがなんだか萌のことが気になり事務所に行った。

それをも見計らったかのように彼女が乗り込んできて


「お兄ちゃんのところにいくわよ!」

 と、強引に連れ出されたのだ。




 オレはセッティングまででよかったのに。


 とお複雑な気持ちだったが、慌しい一日を振り返るとどうにも疲れることばっかりだった。

すでにお昼時でまっすぐ家に帰りたかったのだが……仕方なく事務所に戻ってきて車を止めた。


「おい、起きろよ」

 助手席のドアを開けて腕を引っ張りあげようとしたけど、どうにも動いてくれない。

 あんだけ泣いてたし疲れてしまうのも仕方ない、って思うあたり、オレってかなりお人よしだ。


 なんとかして眠り姫の体の下に手を滑り込ませ、膝の下と背中から脇に腕を回して引っ掛ける。

「よい、しょっとぉ」

 軽すぎないお姫様を抱きかかえながら、器用にオレの体を当てて扉を閉め、遠隔キーでロックをかけた。


 時折フラつきながらも、ようやく事務所に到着。

当然のごとく、仮眠室やましてや布団なんてモノはあるわけないから、ソファに横たわすことにした。


 ゆっくりと壊れ物を扱うように、片膝をソファに一度乗り上げ、彼女の体を預ける。


なんとか起こさずに横にすることに成功した。

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