理想恋愛屋
第一話 理想二人組

1.拝啓、葵社長

 世の中には、どうしたって抗えないものもある。

 それが運命や使命だとか、そんなかっこいいモノならば、オレだって歓迎したかもしれない。


 オレの場合は──……






 いつものように、誰もいない事務所で適当に業務を始める。

 まずオレがするのはメールのチェック。

客の途中経過や新規の話もあったりするから、オレはこまめに確認している。


 早速、今朝も新しいメールが届いていた。



<拝啓、葵社長>と銘打ちかしこまった出だしのメールに、オレはまたか、とため息をつく。

 定期的に届く彼からのメールは、いつも萌とあそこへ行ったとか、こんなことがあったとか、とにかく順調なことを伺わせる。


「そりゃよかったな」

 途中経過がありすぎる彼からの連絡は、ある種ノロケだということには気付いていた。

まだ複雑な気分ではあるが、彼らが幸せならば仕事冥利だ。

そのままメールを流し見る。

<それでご迷惑ついでですが、本日より妹がそちらに伺いますのでよろしくお願いします。>


「ふーん、いも……」

 口にしてはじめて気付き、勢いよくパソコンのモニターをもう一度確認する。


 だって、あんたの妹といったら……!


カツン、カツン……と静かな廊下に足音が響く。


 ま、まさか。


 ごくりと息を飲みこんで耳を澄ます。

その足音はこの事務所のあたりで音がやんだ。


 オレにとって、そんじょそこらのホラーやサスペンス映画より背筋を凍らせる。


けれども予想に反して一向に開かない扉に疑問に思い、ゆっくりと近づいた。

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