理想恋愛屋
「匠さんに、招待されたんです」

「どこに?」

 オレの問いに答える代わりに、紙切れを差し出してきた。


「コレは…、遊園地のチケット?」

 萌はコクンと頷き、また押し黙ってしまった。

この年齢にもなって、とは若干思わなくもないが。


「で、デートならいいじゃないか」

 だけど萌は苦しそうに首を横に振る。

「違うの。渡されたとき、匠さんに『大切な人を誘ってください』って……」

 今にも泣きそうな萌。

 兄の意図もわからないから、オレにはどうしてやることもできない。

ただ宙に手が彷徨っただけだった。


「お兄ちゃんもなかなかやるわね」

「そうだな……って、おいっ!」

 真横からの感心するかのような言葉に、思わずオレは頷いてしまった。

ってゆーか、いつ戻ってきたんだよ!


 ソファに座る萌を、片手にアイスの乗ったコーンをもちながら彼女は見下ろす。


「なにもしないで、またヒロインぶるつもり?」


 棘をむき出しにしたその言葉に、さすがのオレも頭にくる。


「ちょっと、言い過ぎ……っ」

「葵、いいの。……本当のことだもん」

 オレの反論を制した萌はあからさまに無理した笑顔だ。

「ちょうど仕事を頼まれていたし…」

「でもっ!」

 兄は萌しかみえてないのは、オレがよく知ってる。だからきちんと二人が乗り越えてほしい。

 ──それが恋愛屋の仕事。


「ありがと、葵。少し考えてみる」

 コーヒーご馳走様、と残して萌は去ってしまった。

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